2024/08/15
品川区の歯医者 かなもり歯科クリニックの歯科医師 沼部です。
虫歯が神経に達していて神経をとらなくてはいけないと言われた歯、もしかしたら神経を残せる可能性があります。
神経を残せる歯とそうでない歯の違いや、治療法、さらには歯の神経を残すことがなぜ重要なのかを説明します。
目次
歯の神経(下の図の赤い部分)まで虫歯が進行すると、神経へ細菌が感染してしまい冷たいものを食べたりすると痛みがでます。
治療中、虫歯を削っている最中に少しでも神経が出てきてしまうと、神経への感染があると判断しその場で神経を除去する治療(=抜髄・根管治療)を行うことが日本の保険治療のスタンダードです。
歯の神経は、歯の寿命を伸ばすために重要な組織です。
虫歯が深いと神経まで細菌が到達してしまいますが、細菌に感染してしまった神経は、炎症を起こして強い痛みが出るため、神経を抜くことでしか治すことができません。
しかし、この「神経を取る」ということにはかなりのリスクが伴うことを覚えておきましょう。
具体的には、歯の神経を取る事で下記のようなデメリットがあります。
⻭の神経は痛みを感じる組織です。神経をとることで細菌感染リスクが高まり、また多くの歯質を失うことで⻭が折れやすくなってしまいます。
そして⼀度破折してしまった⻭は、残念ながら元どおりになることはなく基本的に抜歯となります。接着剤でつけるというような⽅法はありますが、⽣活の中での衝撃で再び割れてしまうことが多く、⻑期で安定して保存することは難しいです。
根管治療でも触れているように、歯の神経は複雑な構造をしており、神経組織を問題のない状態まで取ることは治療の難易度と複雑性を上げます。
このように歯の長期保存・延命を考えると、⾍⻭治療ではいかに神経を抜かない方法を選択するかが重要になります。そこで注⽬されているのが、⻭の神経を抜かない「直接覆髄法」という治療法です。
「直接覆髄法」とは、⾍⻭が深く神経が多少露出してしまっている場合でも、露出した神経を薬剤で直接覆うことで神経を保護する治療法です。
当院では直接覆髄法にMTAという材料を⽤いることで、神経を極⼒保存する治療を⾏っています。
MTA(Mineral Trioxide Aggregate)は、1993年に米国ロマリンダ大学のDr.Mahmoud Torabinejadらにより、根管治療の新しい材料として開発されました。
1998年以降に欧米各国で発売され、日本では2007年から使用が開始されています。
MTAは⽔と反応させることでゆっくり硬化し、その過程で殺菌作⽤を⽰します。
さらに持続的にカルシウムイオンを放出し、細菌により失われた⻭のカルシウム成分を補うことができます。
そのため⾍⻭で神経近くの⻭が溶かされてしまってもMTAを使用することで、MTAが殺菌しながら修復作⽤を⾼め、神経を保存する可能性を⾼めることができるのです。
また、従来の⽔酸化カルシウム製剤と⽐較し、硬化後に材料の崩壊が起こりにくいため、⻑期的に良好な予後が期待されています。現在は⽇本でも多数の症例に使⽤され、臨床試験でも安定した⾼い治療成績が報告されています。
当院のMTAによる直接覆髄法は、Pro Root MTAなど複数の材料を症例に合わせて選択しています。
神経を抜く抜髄・根管治療と比べて、MTA直接覆髄法はどんなメリットがあるのでしょうか。
⻭の神経を取る治療では、どうしても便宜上⻭を⾍⻭のサイズよりも⼤きく削らなくてはなりません。MTAで神経を保存できれば⻭を削る量も最⼩限で済むので、⾃分の⻭をなるべく保つことができます。
神経を抜いてしまうと歯の削除量の増加や修復物の影響により⻭が折れやすくなってしまいます。⻭の寿命を伸ばすには、⻭の神経があるかどうかがとても重要なのです。
神経が細菌に感染していなければ、⾍⻭が深くても神経を保護してあげれば保存が可能です。MTAは殺菌効果と⻭の修復の補助効果がある材料なので、神経の保存の可能性を⾼めてくれます。
治療の過程で、神経近くの⾍⻭を取ったり薬を⼊れたりと⻭に刺激を与えるので、⼀時的に 神経が過敏になることがあります。しかし、この症状は徐々に落ち着いてきます。
⾍⻭のある⻭に持続的な強い痛みがある場合には、神経が細菌に感染し炎症が起こっています。その場合には、根の先端まで神経を取らざるを得ません。
神経がすでに細菌感染して死んでしまった場合には、神経は元に戻りません。神経を取り、きれいに⻭の中を掃除する治療を⾏う必要があります。
さらに⻭⾁を下げなくてはならないほど⾍⻭が進⾏しているケースや⻭根破折を起こしているケースでは、治療の適応とはなりません。
MTAは保険適⽤外となるため、費用は自由診療となります。
費用は歯科医院によって金額の設定が違うため、問い合わせてみてください。
MTAの自由診療の範疇のものとなりますので、全ての歯科医院で用意しているものではありません。かかりつけの歯医者さんにMTAの取り扱いがなく、万が一神経に達する虫歯だった時は神経をとらざるを得ません。
この患者様は冷たいものや熱いものを⾷べても特に症状がない状態でしたが、レントゲン写真から⼀番奥の銀⻭の内部で⾍⻭になっていることが疑われました。
銀⻭を除去したところ、銀⻭の下で神経に達しているかもしれない⾍⻭がありました。
まずは唾液や⾎液による汚染を防ぐために、外周および浅い部分の⾍⻭を除去して光重合型レジンで隔壁をつくります。(このときはまだ⻭髄付近に⾍⻭を残しています)
その後、ラバーダムを使⽤して、⼝腔内細菌による汚染を防ぎます。
隔壁製作時に残していた⾍⻭を除去すると、やはり神経が露出しました。
通常の治療であれば神経を抜く治療に移行しますが、神経を残すためMTAによる直接覆髄法を行っていきます。
マイクロスコープや拡⼤鏡下にて、周囲の⾍⻭を完全に除去したのを確認したあと、Pro Root MTAを丁寧に詰めていきます。
最後に光重合型レジンで密封します。
経過観察後、神経が生きていることを確認し、症状が安定していれば最終的な詰め物をして治療は終了です。
当院ではMTAのおかげで、⻭の神経を抜くケースが著しく减少しました。
⾍⻭の⼤きさや⻭根破折などにより適応できない場合もありますが、⾮常に有効な治療法だと考えています。お気軽にご相談ください。
治療が終わり、麻酔が切れると歯がしみる症状が出ます。これは、一部神経を触っているので仕方がないものです。2、3日はしみる感覚が続きますが一時的なものです。
デメリットの部分で少し触れましたが、MTAで神経を残したくとも、元々の虫歯が大き過ぎて勝手に神経が死んでしまっている場合は抜髄になります。
抜髄と診断される歯の特徴は以下の通りです。
・強い痛みが続く、なにもしなくても痛い
・虫歯は大きいのに冷たいものを食べても染みるような痛みが全くない
・歯の色が周りの歯と比べて黒い、または灰色がかった色をしている
・打診痛(コンコンと歯を叩いた時に出る痛み)がある
・歯科医師が虫歯を除去した際に神経が死んでいると診断した場合(ある程度神経が生きているか死んでいるかは歯科用顕微鏡:マイクロスコープでの診断が可能です)
このような場合はMTA直接覆髄法は適応ではなく、根管治療を行うようになります。
歯の神経をとらない方法 MTA直接覆髄法についてお分かりいただけたでしょうか。⾍⻭の⼤きさや⻭根破折などにより適応できない場合もありますが、⾮常に有効な治療法だと考えています。
MTA直接覆髄法の適応はどうかは歯科医師の診断が必要になりますので、自己診断は控えるようにしてください。
また、デメリットの部分でも述べましたがMTA直接覆髄法は、全ての歯科医院でできるものではありません。
かかりつけの歯医者さんにMTAの取り扱いがなく、万が一神経に達する虫歯だった時は神経をとらざるを得ません。歯の神経を抜く必要があると言われた歯であっても、神経を残せる可能性があるので一度当院またはMTAを取り扱っている歯科医院までご相談してみてはいかがでしょうか。
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