MTA直接覆髄法(ちょくせつふくずいほう)
MTA直接覆髄法
⻭の神経を取るとどうなる?抜髄のデメリット
歯の神経は、歯の寿命を伸ばすために重要な組織です。
虫歯が深いと神経まで細菌が到達してしまいますが、細菌に感染してしまった神経は、炎症を起こして強い痛みが出るため、神経を抜くことでしか治すことができません。
しかし、この「神経を取る」ということにはかなりのリスクが伴うことを覚えておきましょう。具体的には、歯の神経を取る事で下記のようなデメリットがあります。
・⻭の破折リスクが⾼まり、抜歯につながる
⻭の神経は痛みを感じる組織です。神経をとることで細菌感染リスクが高まり、また多くの歯質を失うことで⻭が折れやすくなってしまいます。
そして⼀度破折してしまった⻭は、残念ながら元どおりになることはなく基本的に抜歯となります。接着剤でつけるというような⽅法はありますが、⽣活の中での衝撃で再び割れてしまうことが多く、⻑期で安定して保存することは難しいです。
・治療が複雑になる
根管治療でも触れているように、歯の神経は複雑な構造をしており、神経組織を問題のない状態まで取ることは治療の難易度と複雑性を上げます。
このように歯の長期保存・延命を考えると、⾍⻭治療ではいかに神経を抜かない方法を選択するかが重要になります。そこで注⽬されているのが、⻭の神経を抜かない「直接覆髄法」という治療法です。
直接覆髄法
直接覆髄法とは、⾍⻭が深く神経が多少露出してしまっている場合でも、露出した神経を薬剤で直接覆うことで神経を保護する治療法です。
当院では直接覆髄法にMTAという材料を⽤いることで、神経を極⼒保存する治療を⾏っています。
MTA
MTA(Mineral Trioxide Aggregate)は、1993年に米国ロマリンダ大学のDr.Mahmoud Torabinejadらにより、根管治療の新しい材料として開発されました。
1998年以降に欧米各国で発売され、日本では2007年から使用が開始されています。
MTAは⽔と反応させることでゆっくり硬化し、その過程で殺菌作⽤を⽰します。
さらに持続的にカルシウムイオンを放出し、細菌により失われた⻭のカルシウム成分を補うことができます。
そのため、⾍⻭で神経近くの⻭が溶かされてしまっても、MTAが殺菌しながら修復作⽤を⾼めてくれるので、神経を保存する可能性を⾼めることができるのです。
また、従来の⽔酸化カルシウム製剤と⽐較し、硬化後に材料の崩壊が起こりにくいため、⻑期的に良好な予後が期待されています。現在は⽇本でも多数の症例に使⽤され、臨床試験でも安定した⾼い治療成績が報告されています。
当院のMTAによる直接覆髄法は、Pro Root MTAなど複数の材料を症例に合わせて選択しています。
MTAによる直接覆髄法のメリット
できるだけ歯を削らずに治療できる
⻭の神経を取る治療では、どうしても便宜上⻭を⾍⻭のサイズよりも⼤きく削らなくてはなりません。MTAで神経を保存できれば⻭を削る量も最⼩限で済むので、⾃分の⻭をなるべく保つことができます。
神経を保存し歯の寿命を伸ばせる
神経を抜いてしまうと歯の削除量の増加や修復物の影響により⻭が折れやすくなってしまいます。⻭の寿命を伸ばすには、⻭の神経があるかどうかがとても重要なのです。
神経近くまで達している虫歯にも使用できる
神経が細菌に感染していなければ、⾍⻭が深くても神経を保護してあげれば保存が可能です。MTAは殺菌効果と⻭の修復の補助効果がある材料なので、神経の保存の可能性を⾼めてくれます。
MTAによる直接覆髄法のデメリット
治療後にしみることがある
治療の過程で、神経近くの⾍⻭を取ったり薬を⼊れたりと⻭に刺激を与えるので、⼀時的に 神経が過敏になることがあります。しかし、この症状は徐々に落ち着いてきます。
症状が出ている場合は使用できない
⾍⻭のある⻭に持続的な強い痛みがある場合には、神経が細菌に感染し炎症が起こっています。その場合には、根の先端まで神経を取らざるを得ません。
神経が死んでいる場合は使用できない
神経がすでに細菌感染して死んでしまった場合には、神経は元に戻りません。神経を取り、きれいに⻭の中を掃除する治療を⾏う必要があります。
さらに⻭⾁を下げなくてはならないほど⾍⻭が進⾏しているケースや⻭根破折を起こしているケースでは、治療の適応とはなりません。
保険外の治療となる
MTAは保険が適⽤にならないため、治療は自由診療となります。
MTAによる直接覆髄法の治療例
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この患者さまは、冷たいものや熱いものを⾷べても特に症状がない状態でしたが、レントゲン写真から⼀番奥の銀⻭の内部で⾍⻭になっていることが疑われました。
銀⻭を除去したところ、銀⻭の下で神経に達しているかもしれない⾍⻭がありました。
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まずは唾液や⾎液による汚染を防ぐために、外周および浅い部分の⾍⻭を除去して光重合型レジンで隔壁をつくります。(このときはまだ⻭髄付近に⾍⻭を残しています)
その後、ラバーダムを使⽤して、⼝腔内細菌による汚染を防ぎます。
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隔壁製作時に残していた⾍⻭を除去すると、やはり神経が露出しました。
通常の治療であれば神経を抜く治療に移行しますが、神経を残すためMTAによる直接覆髄法を行っていきます。
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マイクロスコープや拡⼤鏡下にて、周囲の⾍⻭を完全に除去したのを確認したあと、Pro Root MTAを丁寧に詰めていき、光重合型レジンで密封します。
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経過観察後、神経が生きていることを確認し、症状が安定していれば最終的な詰め物をして治療は終了です。
当院ではMTAのおかげで、⻭の神経を抜くケースが著しく减少しました。
⾍⻭の⼤きさや⻭根破折などにより適応できない場合もありますが、⾮常に有効な治療法だと考えています。お気軽にご相談ください。